NAGUREO'S SAGA




第1章

 nagureoは憔悴し切っていた。ようやく始まるIIDXの企画と軌道。しかし、ここ
最近の出来事はnagureoにとって正直言って気分の良くない事が頻発していた。
 1つにはまずe.o.s.の放逐。1stと3rdで曲を作っては貰ったが何処かずれたイメージ
ばかりで有った。スタッフの間でもe.o.s.の曲は何度も入れる入れないで揉めまくった
経緯が有る。上層部に「アイツはもういいから・・・・」と言うセリフを聞かされた時
nagureoの気分は重くなっていた。確かに勘違いな部分は有るとはいえアイツも1stの頃
苦楽を共にした仲間じゃないか・・・・そんな意識が何時の間にか芽生えていた。とは言え
会社企業は何よりも成績と実績が優遇される。何時までも使い物にならないと判断された
人間を置いておく訳にはいかない。
 e.o.s.はその後間もなく退社した。その後彼がどう言う風になっていったか知る者はいない。
 2つにはいきなりのMIZKING退社であった。これにはnagureoだけではなく会社の
ほとんどの人間が驚愕の出来事として受け止められていた。売れないゲームの責任を
取らされてならともかく、ビートマニアの企画による功績はMIZKINGによる部分が
かなり大きい。彼が辞める理由など普通思いつく訳が無い。そんなとき、nagureoは
ふと例の事を思い出した。

 数ヶ月前にビートマニアのアッパーバージョン(後のIIDX)の企画が立ち上がり
スタッフ全員が召集され会議を行なっていた時である。(そういえばMIZKINGはあの時
鍵盤を7つにする事にかなり強硬に反対していたよな・・・・)
尋常ではなかった。他のスタッフから「なにをそんなに感情的に・・・・」とやや
呆れ帰られた表情で見られた時も、MIZKINGは自説を強く熱弁していた。
「ビートマニアが7鍵になる事で広がりが来るのか?俺は必ずしもそうはならない
と思っている。第一今までやり続けていた客は5鍵の難しい曲でも苦労している。
そんな状況で鍵盤を増やしてついて来れると思うか?一般の客を置いて行く様な事は
なるべく避けるべきだ。ビートマニアは一般の客を相手にして売れたんじゃないのか?」
 激しい口調だった。だが声高になるほど周りはどんどん白けた雰囲気になってきている
のが恐ろしいほど感じてきたのである。
 最後の方の会議でMIZKINGは「これからの音楽の可能性を見るため7鍵にOKを出しました」
と言って7鍵で行く事が決まった。しかしその口調はどうでもいいと言いたげな、何か
投げやりな感じの言いまわしで有った。MIZKINGが会社を辞めたのはそれから間も無かった。
確かに驚きでは有ったが、その反面妙に冷めた感じの雰囲気が有った。
「しょうがないさ」「まぁ、そうだろうな」「アレなんだろ?アレ」
(よくそんな態度が取れるもんだよな・・・・)nagureoはそんな雰囲気に少し鬱的に
なっていた。 
 3つ目はnouvo nude大揉め事件だった。この事はnagureoにとって思い出したくも無い
事件だったと言える。少なくともnagureo自身はnouvo nudeのメンバーとは仲は良かった。
nagureoが曲の打ち合わせをする為にメンバーの家を訪れて、カレーを食べながら
これからの曲について仲良く談笑した過去があるだけに・・・・
 事は収録の時に起こった。nagureoは別用でその時には居なかった。nouvo nude
が収録の為にスタッフと一緒に居たが、そのスタッフがどうやら適当にやっつけ仕事的
にやっていた事にnouvoのメンバーが抗議したところ「生意気だ」との声が挙がった
のである。収録が終わった後事も有ろうにnagureoに向かって「なんであんな連中を
使うんだ」との理不尽な要求がやってきたのであった。事の顛末を聞いてみたが
非はどう考えても自分達の方に有る。しかし、スタッフの言動は「彼等を使うな」
の一点張りだった。「それは出来ない・・・・しかし仕方が無い。彼等には今回
限りだけと言う事で・・・・」nagureoにはそう言うのがやっとだった。nagureo
は根が優しくおとなしい性格では有ったが、それである為にこう言う強硬な要求に
逆らえない押しの弱さが有った・・・・。
「nouvo nudeのみんなには悪い事をした・・・・」nagureoは事ある度にそう思っていた。
SUPER MIXや4th MIXのサントラにnouvo nudeのロングバージョンを入れたのは
彼等に対するせめてものお詫びだったのかもしれない。

 ともかく過去を振り返ってばかりもいられない。IIDXという一大プロジェクトが
控えている。其の為にも色々なアーティスト達と交渉した。ビートマニア2ndから
協力してもらっているヒロシワタナベ、インディーから発掘したm-flo、それから
MONDAY満ちるや上野圭一などの有力アーティスト、そしてこれから先会社の専属
として働いてくれるSLAKEとTAKA・・・・
(彼等の協力でIIDXの成功と発展を成し遂げて行かなければな・・・・)
これから起こる事にはもっとポジティブに考えておこう・・・・nagureoはそう
自分に言い聞かせていた。
第1章終

第2章

 IIDXと元祖の2つを並べる方面でスタートした体制。IIDXのサウンドプロデューサー
は勿論nagureoで決まっていた。そして5鍵の方面はSLAKEとTAKAの2人がプロデューサー
として、nagureoがアドバイザーとして企画は進める事になった。時々ポップンの方に
移籍したHIROやnagureoの盟友でも有るSIMONが裏方で手伝う事も有り、物事は順調に
進んでいた。・・・・いや、進んでいるハズだったと言うべきであろうか。
 激務に継ぐ激務でnagureoはやがて疲労が強くなっていた。作曲者との打ち合わせ、
自分の曲の編集、スタッフの会議、譜面制作・・・・そして迫り来る制作アップの日。
急がなければならない、しかし体が重い。早く終わって欲しい、しかし締切は来ないで欲しい
・・・・矛盾が頭の中を駆け巡り、やがて思考が停止してしまう事もたまに見うけられる
様になっていた。
 「どうしたんですか?nagureoさん」
 「あ、いや、ゴメン。ちょっと疲れててさぁ・・・・」
休む訳にはいかないのは分かってはいた。だが体と脳の方は徹夜に継ぐ徹夜で限界を
突破する寸前まで来ていた。
(このままでは本当にダメだ。もう顰蹙買うの覚悟で言うしかない・・・・)
 nagureoは数日間の休息を要求した。当然の事ながら帰ってきた返事は
「そんな事出来るわけ無いだろう。大体忙しく働いているのは君だけじゃないんだよ」
予想通りの答えであった。そもそも会社がそう簡単に休みをくれる訳が無い。確かに
会社の言い分も分かる。自分一人のワガママを聞ける訳は無い。しかし、コレ以上無理に
続けて何も出来なくなって良いものか。
 随分我慢を続けていたが、遂に耐え切れなくなった。nagureoは「勝手ながら数日休ませて
下さい」と上層部に話し、一時離れて行った。

 やがて、2〜3日休んで頭と体の整理をつけ会社に戻ったnagureo。
「どうも〜・・・・」
「あ、どーもッス」「チワ―ッス」
さぁ、これからまた仕事に専念しなければ・・・・nagureoは自分にそう言い聞かせて
溜まった仕事の整理と片付けを始めて行った。
 数時間仕事をしていて、何か雰囲気が微妙に変わっている事にnagureoは徐々に気付いて
いった。何時もと変わらない仕事にスタッフ、しかし何か違う・・・・
(まぁ、無理言って休んだからなぁ。そりゃ有る程度白い目で見られてもしょうがないか)
初めはそんなもんと思って割り切ってやっていたが、やがてその雰囲気の違いがそんな
生易しいものでは無い事が起こり始めていた。
「これとこれやってくれない?」「あー分かりましたー」
上司の要求に2つ返事で答えていたのはTAKAだった。(あぁ、俺の居ない間にやってくれたのか
悪いなぁ)そう感謝しつつTAKAの方に歩み寄って書類を見た時驚愕をしてしまった。
 それはIIDXのプロジェクトでプロデューサーの自分が色々手配しなければならない
項目の部分である。一応自分の許可を得てからやらなければならない部分を何時の間にか
TAKAがやっていたのである。一瞬硬直したnagureoに上層部の人間がぽつりと言った。
「IIDXはお前とTAKAが中心だ、あと元祖の方はお前がSLAKEをサポートな。分かってるだろう?」
分かってるだろうなどと言われても全然知らない話である。この会社の予定変更は良くある事
かもしれないが、それにしても自分の知らない所で話が勝手に進んで行く。自分の立場
は一体なんなんだ、そんな気分が渦巻いていた。

 TAKAは策士であった。nagureoが疲労していた状況を見てしっかり狙っていた。
(俺は上位機種の頭になる)勿論おべっかやお世辞で上にいける用なものではない。
実際にTAKAは実力が有った。それは彼の仕事振りや曲の素晴らしさにハッキリと現れている。
「彼は出来るな」「うん、有望だ」「若いのにしっかりしているな」
TAKAの株が上がって行く事は当然彼にとっても好都合だった。その時に起こった
nagureoの一時離脱。機を見るに敏なTAKAがこの好機を逃すわけがなかった。
「プロデューサーがいないって事でしょうが、どうします?やりますか?」
上層部の方からも実際に彼の仕事振りの良さは評判振りだった。
「よし、じゃ君もIIDXのプロデューサーとしてやってくれ給え」
「分かりました、有難う御座います」
この様な事はnagureoにも報告して然るべきだったが、彼には何の報告も無かった。
nagureoが戻って来た時は、TAKAがプロジェクトの中心を引き継ぐ感じで動き回っていた。
(幾ら自分が休んでいたからってせめて報告だけでも有って良いはずなのに・・・・)
一瞬ネガティブな思考がよぎったが
「nagureoナニやってるんだ?何時までも休みボケしてるなよ」
と言う上司の声で我に帰った。(そうだった、今はそんな事を考えている場合じゃない。
まず目先の仕事を片付けないと)すかさず仕事に戻るnagureo。IIDXの発売はもうそこまで
来ている。それに自分の仕事はIIDXだけではない。元祖筐体の新シリーズ(後の4th)
にも出向かわなければならないのである。立ち止まっているヒマは全く無かった。

 5鍵の事務所にはTAKAが事実上抜けたあとSLAKEが忙しく働いていた。元DJらしく
音楽の選別にはソツなく動いている。nagureoはSLAKEと共同で働いていく内に
自然と仲良くなっていた。今までどちらかと言うと歌ものやポップ系な曲がやや多かった
が実際は結構コアな曲が好きなnagureoにとってSLAKEの地下系的な知識や音楽は
自分の気持ちを楽しい方へといざなってくれた。
 しかし、現実問題として締切はもうそこまで迫っている。SLAKEを初めとするスタッフ
一同は全力を挙げて完成にこぎつけ様としているが、なかなか間に合わない。nagureoも
何時までも感傷に浸ってはいられなかった。IIDXと元祖のプロジェクト、とにかく
急いでこぎつけなければ・・・・。
 やがて発売された完成品、元祖の4thとIIDX。(やっと一段落終わった・・・・)
安堵のため息が思わず漏れた。地獄の様な忙しさからやっと開放されたのだ。と
同じにいきなりやって来た極度の疲労感。(明日っから思いっきり寝るぞー)
とにかく一刻も早く休みたかった。今だけは何もしたくない・・・・今だけは
ゆっくりとしていたい・・・・そう、今だけは・・・・
 暗闇から光が差込みやがて快晴の様な気分になったnagureo。しかし、その青空に
暗雲がゆっくりとだが確実に忍び寄って来ているのをnagureoは全く気づく事が
出来てはいなかった。それが、ただの暗雲で済む物でない事も・・・・
第2章終

第3章

 鳴り物入りで発表されたIIDX。しかし、その反応は思ったよりも鈍いものだった。
7つの鍵盤にはやはり「難しい」という抵抗感が有り、またプレイ値段が300円と
言うのは「高過ぎる」との不評を買っていた。プレイした人間の感想からはそれでも
「凄い」「面白い」「最高だ」との好反応も有り、決してネガティブな訳では無かった
のでは有るが・・・・
 「う〜ん、ちょっとアレだなぁ・・・・」
 上司の反応は自分達の予想より余り振るっていない事に不満気であった。一斉に群がる
様にプレイする事を期待していただけにやや当てが外れたと言うところであろうか・・・・
 「もっとさぁ、ほらバーッとやってもらわないとダメなんだよ。バーッとさぁ」
nagureoはそんな社内の上部の言動に少し苛立っていた。
(元祖の初代だって初めっからいきなりみんなやっていた訳じゃないんだ。時間を掛けて
徐々に広まって行ったんじゃないか。5日や10日位でそんなに簡単に結論を出すなよ)
「もうちょっと練りこんでやってればよかったんじゃないかなぁ・・・・」
そんな事を横で言っていたのはTAKAだった。例の件以来、TAKAとはよく仕事を共に
する様になっていた。仕事以外でもタマに会っては音楽や他愛の無い話などで時間を
費やしていた。だが、nagureoにとってTAKAは話をしていてどっか噛み合わない感じ
が有った。好き嫌いの話ではない、しかし何かが俺とは違う。そして、その違う部分は
自分とはどうも相容れない何かの様な・・・・いや、もしかしたらそれはただの思い違い
だろう。もっとちゃんとコミュニケーションをとれば良いのではないかもしれない。
「いずれもう少ししたら分かってくれるだろう・・・・」
nagureoはTAKAに言ったとも自分に言い聞かせるともはっきりしない様な口調で呟いた。

 それからしばらく経って当時大人気のD.D.R.とリンクすると言う話が挙がっていた。
「片方でD.D.R.をやって、もう片方でIIDXをやる。同時にプレイさせる事によって
インカム2倍を狙う事も出来るかもしれない」
そんな振れ込みで会議はD.D.R.の開発陣とも交えて始まった。nagureoは当然ながら
TAKA等IIDXとNAOKIを始めとするD.D.R.の両開発陣の会議は随分時間の掛かる白熱
した物となっていた。だが、そんな会議の中にあってnagureoは全く別な事を考えていた。
(あいつ、俺が逃げた様な事を書いていたよな・・・・いや、それは自分のせいも
あるけど、だけどその後の仕事をさも自分で成し遂げたような感じに書きやがって)
それはIIDXのサウンドトラック発売のTAKAの文の事だった。nagureoはあの文に対して
気に障っていた部分があった。もっとも自分が必要以上に過剰反応しているだけなのかも
しれないが、それにしても何時の間にリーダーみたいな立場になったんだと思い込んでいた。
何時の間にリーダーみたいになったんだ、いやソレ以前にそういう立場になったらなったで
俺に何か言えば良かったハズじゃないか「・・・reo」自分もアレな部分が有ったとは言え
「・・ureo」少し勝手過ぎるじゃないか、俺の立場はそんなに軽い
「nagureo!」「?!・・・・は、はい」「さっきからお前の意見を聞いているのに
何やっているんだ?ちゃんと人の話を聞いているのか!」
 迂闊だった。ここ最近の鬱屈した思いでについ囚われてしまって大事な会議の中身を
飛ばしていたのだった、これはもはや言い訳が出来ない。
「すいません、ウッカリしていました・・・・」全面的に否を認め謝罪するのが精一杯だった。
「すいません、俺の方から発言して良いですか?」少ししてからそのセリフが出て来たのは
TAKAだった。一瞬嫌な雰囲気が立ち込めていたが、TAKAのこの発言ですぐに戻る事が出来た。
その後会議はなんとか無事に終了出来たがnagureoにとっては後味の悪い感情を残す事になった。

 それからIIDXとD.D.R.が正式にリンクする企画が通り、全面的に開発に着手する事
となった。そしてそれと同時にIIDXの1.5タイプバージョン(後のsubstream)をも
開発する事になっていった。また忙しくなって行く開発陣・・・・しかし、日を追う事に
自分はその中には居ない様な感覚に包まれていた。いや、それは決して単なる気のせいでは
無かったかもしれない。あの会議以降、積極的にリーダーシップを摂っていたTAKAに
実際仕事や意見なんかが多く流れていったのである。気付けば前よりも自分の比重が軽くなって
来ていたのが分かる。
(俺は・・・・もうここには必要無いのかもしれない)
何時の間にか疎外感が感情を支配しはじめ仕事や作曲にも余り身が入らない状態が続いてきた。
事実、substreamに本来新曲を入れるはずだったのが全く出来ていなかった。追加の曲が
ままならない事体になっても頭の中が硬直したままで上手く動いてくれない・・・・
 結局、substreamに自分の新曲を入れる事は出来なかった。苦肉の策として元祖4thに
入れた曲を送りこむ事で精一杯だった。
(なんだ、出来ていなかったのかよ。だめだなぁ・・・・)
はっきり言われた訳では無いが、そんな感じが有ったのは十分察しがつく。nagureoは精神的
に相当磨り減っていた。
 やがて、D.D.R.とのリンクバージョン(club)やsubstreamが発売されIIDXの世界は
大分華やかになっていった。そんな華やかさの陰でnagureoは上層部に向かってぽつり
と言った。「俺5鍵に戻ります・・・・」上層部の人間はちょっとだけ間が有ったが
やがて「いいだろう」とだけ言った。その会話は恐ろしいほどに冷めきっていた。

 久し振りに5鍵の事務所に戻ってきた気がする・・・・いや実際にはたった数日だけ
のハズだが、ここしばらくの仕事に追われなおかつ様々な感情に振り回され疲労していた
せいなのか随分長く戻っていなかった感じがしていた。そこには正式に5鍵プロデューサー
になったSLAKEやポップンの仕事の合間を縫ってやって来たSIMON、そして5鍵専属で
働く事となったRAMとASLETICSの姿が有った。全員がそれぞれ各自の音楽論やら四方山話
で盛り上がっていた。
「随分疲れているみたいだな、まぁアレだけのプロジェクトならそうなって当然か」
SLAKEが話しかけてきた。「まぁね・・・・」ぽつりと一言だけ言った。
「とりあえずどっかに食いにでも行きますか、nagureoさんも来た事だし」
RAMがそう提案するとよし、そうするかと言う事でnagureoを含めて街中へと消えていった。
彼等と他愛の無い話をする中nagureoは「俺はやっぱりこっちの方が性に有ってるんだな」
とふと思っていた。
第3章終

第4章

 5鍵の方に戻ってSLAKE達と仕事をする様になってから少し経った在る日、nagureo
は上司に呼ばれた。(一体なんなんだろう、元祖のシリーズを終了させるとか?
ありえそうだよな、この会社ならそんな事は平気でやりそうだし)そんな事を考えながら
とぼとぼと歩いて行った。
コンコン「どうも・・・・」「来たか、まず入れ」「はい・・・・」
「実はなんだが・・・・ビートマニアのアッパーバージョンを開発をしようと思っている」
アッパーバージョン?IIDXの事じゃないのか?いや、どうも違う事を言っている感じだ。
「・・・・と言いますと」と言うnagureoに上司は5鍵もそろそろ交代時期だろうから
新基板を乗せた筐体を作り上げる、そしてそれを普及させた後元祖の筐体と緩やかに
チェンジするという構想を聞かされた。
「こう言う事はやはり、まずお前が先んじてやっていくのがいいと思ってな」
なるほど、5鍵の新バージョンと言う事か。しかし、それなら今元祖の方でSLAKE達が
頑張ってやっているアレはどうするのだろう?
「あぁ、アチラを直ぐ終わらす訳じゃない。お前は元祖とアッパーバージョンの方を
掛け持ちすれば良い事になっているからな。まぁ頑張る事だ」
 随分簡単に言ってくれるものである。1つのシリーズをやるのも大変なのに再び
掛け持ちか、在り難いやら無神経やら・・・・。しかし、決まったものはしょうがない。
(まずは頑張ってみるか・・・・それからだな)アッパーバージョン(後のIII)は
まだまだ始まりを告げたに過ぎないのであった。

 一方完全にTAKA体制になったIIDXはしっかりと次の構想を実行していた。それは
自分自身の周りを自分の仲間内で固め、上手く派閥を形成した後動かして行くという
ものであった。その為の動きは既に出来ている。前にD.D.R.とのリンク構想で、会議
を通じて親密になったNAOKIがまずTAKAに協力する事となった。そして、TAKA自身も
TaQやgood-coolと言った人材を掘り起こし自分達と共に作曲活動に携わらせた。
(よしいいぞ、このIIDXを俺の色に染め上げてやる)TAKAの野望は着々と実行に移された。
事実新たにやってきた人達は良くやってくれた。忙しいながらもみなやる気を出して
進んで行く。自然にIIDXの雰囲気は熱気を帯びた強烈なものへと昇華していった。
 やがて、元祖の5thとIIDXの2nd styleが発売された。その頃にはプレイヤーも
段々7鍵に慣れていった者が多く、特に更なる刺激を求めてやまない人達は一斉に
7鍵をやりだす様になっていった。7鍵に群がる人達も自然に多くなっていった。
もはやビートマニアは7鍵だ!そんな雰囲気が自然に沸き上がるのも別に不思議では
なくなっていったのである。TAKAの株が更に上がっていったのももはや当然であった。

「俺達ってやっぱ目立たないモンなんスかね」ぽつりとRAMが言った。
「始めっから目立ったりするもんじゃないさ。俺だって、元祖の初めの頃は全く知られて
無いようなもんだったし・・・・」nagureoはそう説いた。それはある意味自分にも
言い聞かせた感じでも有った。
「俺なりに少しポップな方面もやってみたんだがな。やっぱり地味過ぎたかな?」
そう苦笑交じりに言ったのはSLAKEだった。実際この頃の5thは後の好評判が考えられない程
低評ぎみだった。スタッフにもダメかな・・・・という雰囲気は少しは有る。
「5鍵は5鍵でしか出来ない事が有る。負け惜しみじゃない、俺はやっぱりこっちに
戻って来て良かった思うよ」nagureoは居並ぶスタッフ達にそう言って息をついていた。

 やがて、並行していたプロジェクトの1つ目が出来あがった。いわゆるcomp2である。
早速発売されたが、その時の頃の評判は「難しすぎる」「ナメてんのか」「バカにするな」
と散々だった。特にアナザー方面に非難が集中していた。今回の為に7鍵系(TAKA派)から
TaQとgood-coolを借り受けてにも関らず・・・・
「やっぱりやり過ぎちゃいましたかねぇ・・・・みんな難しいの好きだろうと思ったんスけど」
非難のほとんどが自分の譜面関係だと言う事を知ってSIMONは困った様に苦笑いした。
「ただの総集編じゃ面白みが無いからなぁ、曲をリミックスして出す事自体は間違っては無いと思うんだが」
SLAKEは余り好ましくない現状に手を顎に添えてそう言っていた。そこにnagureoは居なかった。
 nagureoは新たなアッパーバージョン(後のIII)の開発の最終段階にかけて調整を行なっていた。
この時のnagureoは随分とやる気だった。comp1の時以来ポップンと交互で協力してもらっているYouhei、
元祖5鍵から一緒にやって来たRAM、別部署から派遣されて来たFinal Offset、そして7鍵からgood-cool、
他にも色々な外部アーティストにも楽曲を依頼し賑わっていた。
(ただ難しいだけではダメだ。譜面以外の楽しみも色々模索しないと)
フットペダルやエフェクター&ミキサー、自由な曲繋ぎモード、そして元祖の曲のほとんどの復活など
極限まで楽しめる様色々な方向性を考えてみた。その事を考えているnagureoは苦しいながらも
どこか楽しそうな感じもしてあった。実際nagureoはこの時に並々ならない程の曲を揚げていた。
「nagureoさん、凄い勢いですね」そう話しかけていたのはRAMだった。「あぁ、新基板だし色々好きな
事を出来る様にやってみたいからね」nagureoのせりふには自然と楽しそうな雰囲気が出ていた。
「俺、この新基板に立ち会って仕事が出来て良かったと思いますよ」RAMのその言葉にnagureoは良かった
と頷いていた。
 そんな話をしていた所上層部の方から新たな表が渡された。
どうやら3月に先行出荷で様子を見て5月に正式出荷と言う事で決まったらしい。
(そうと分かったら全力を上げて完成に漕ぎ着けるまでだ)nagureoは気合充満で机に向かって行った。

 しかし、その後に起こった出来事は惨憺たるものだった。まず、残りのプロジェクトを完遂
するべく動いていたSIMONが離脱してしまった。上司からの依頼で手伝いにきていたTAKAが
「なんだ、だらしねぇよ。なぁ」とnagureoに向かって話しかける。そのセリフはIIDXの頃に
一時離脱した行為を被らせる様な感じが有った。正直ムカついたが、反論出来るものではない。
「あぁ・・・・」と同意するだけなのがやっとであった。
 やがてなんとか出来上がったこのプロジェクトは、外伝扱いと言う事でclub mixと名付けられ
市場に出回った。がこのclub mixはかなりの低評を下される事となった。IIDX 3rd styleという
強力な相手も有り、なおかつ必要以上に難しいシステムが大幅に人を遠ざけてしまったのである。
 そして、その後にnagureoが上層部から聞かされた話は相当悲惨なものであった。
「それは一体どう言う事なんですか?!」nagureoにしてはやや語気の強い口調で問い掛ける。その
態度に上司は全く素っ気無かった。「ウチ等はね、企業なんだよ。だから売れなさそうな所に金を掛ける
訳には行かないんだな」どう言う事かと言うと、IIIの計画の大幅変更だった。単直に言うと売れなさそう
なので、IIIの出荷は3月の少数出荷で打ち切ると言う事だった。それは散々心血を注いでまで努力した
nagureoにとって、余りにも酷い話だった。
「・・・・じゃ、そういう事だから。あぁ、とりあえずちゃんと完成だけはしとけよ」
nagureoの気持ちなどどこ吹く風で上司はそう言い放つと、さっさと居なくなってしまった。後に残された
nagureoには怒り・嘆き・無気力・絶望といった感情が泥々と渦巻いていた。
(俺の努力は結局単なる無駄足か?何の為にここ迄俺はみんなとやってきたんだ)
許せるものだったらそこいらに有る物全てぶん投げてぶち壊したい・・・・そんな衝動を抑えるのがやっとだった。
 一方good-coolは5鍵の手伝いを終えた後、今までの経緯をTAKAに報告していた。話を一通り聞き終わった
TAKAは口元を少しだけ上げると自分だけに聞こえる様にそっと言った。

 「決まったな・・・・」
第4章終

最終章

 あれ以来nagureoは精神の空白状態が続いていた。手にする仕事もほとんど進まず
ただ周りの流れに身を任せるだけの日々・・・・(俺は別にどうだっていいんだよな。
所詮駄目な人間は何をやっても駄目なんだ。・・・・そうだよ、今までが運が良過ぎた
だけだ。たまたま恵まれていただけだったのさ・・・・)ネガティブな思想だけが
強烈に渦巻いて彼の脳裏からやる気を次々に削いでいった。他部署に出張で行く日々にも
心が入ってはいなかった。表向きは「あのdj nagureo他部署にも堂々曲提供!」と華々しく
飾られていたが、実質的には使い走り・・・・俗な言い方をすればパシリそのもの
であった。陰で「あいつももう終わったよな」「適当に廻しとけよ」そんな感じが薄々と
流れていたのはnagureo自身も分かってはいたが、(そうさ、俺は元々その程度だったんだ)
という自虐的な思考に強く陥って反発する気すら失せていた。
 clubの後に出たフューチャリング(DCTの事)の企画は完全にnagureoやSLAKEの
関りの無い所で行なわれた。形だけは一応nagureoも参加はしたが、実質的には彼には
何の意見も提案もされなかった。いや、しても仕方が無いと言うべきだろう。
巷にも(5鍵は捨てられた)(これからは7鍵が完全メインか)そんな意見で占められ
nagureo自体用済み的雰囲気が充満していた。

 一方完全に主役となりつつあった7鍵。もはやその座は揺るぎ無くない状態ともなり
完全に主流となったTAKAとその仲間達・・・・だが、これから起きた事柄がよもや頂点
に立った座を崩れ落す事とは誰も予想出来なかった。
 その発端の1つは一般公募の事件から起こった。一般から広く曲を集めTAKA等が審査
した後最優秀曲を載せる・・・・企画としてはこの上なく素晴らしいものであったがそこで
選ばれた人間がTAKAにとって爆弾となる人物であった。爆弾となった人物はkors kであった。
収録の時スタッフに相当傲慢な態度で接した彼は、その後事もあろうにネット上で見下す様な
発言を乱発、TAKAとは盟友だったTaQも流石に怒りkors kを厳しく糾弾する事件があった。
更にはkors kの当選曲が実は既にネット上で公開された物であり、規約に違反した事まで明るみ
になってしまった。スタッフからは当然削除を求めたが、それに対するTAKAの答えは「No」であった。
実際TAKAには過去に2nd styleの時にShakeを収録する時、アーティストに不幸があり一時収録を断念
したのを、後に強引に収録した過去があった。あの時は確かに結果的に成功した。
TAKAはnagureoとは違い決して押しに弱い方ではなかった。リーダーらしい決断力に溢れているタイプ
ではあった。だから7鍵のリーダーに相応しいと言っても良かったが、反面強引過ぎるきらいも
あった。(結果的には俺の判断が正しいハズだ。今までがそうだった、今回だってそうしてみせる!)
TAKAには自信が有った。その自信は確かに実力に裏付けされたものなのは言うまでもなかった。今回だってきっと・・・・
 結果的にこの判断は大失敗に終わった。kors kの産んだ問題は予想を遥かに越えて大きくなり過ぎたのだった。
と同時に今までかなり大きな権限を持っていたTAKAが周りの圧力も有ってかなり縮小されたのだった。
5th styleの公募と際に「当選した後でもこちらの判断により取り消す可能性も有る」と言った文を
付け加えられたのは、有る意味TAKAが絶賛してもこちらが駄目出ししたらそれまでだ、という裏のニュアンスが有った。
TAKAのkors kの曲に対するコメントは、kors kではなく自分を弁護している・・・・そんな雰囲気が
少なからず有った。

 そして、事件はそれだけではなかった。とある日いきなりドアが荒々しく叩き開かれるとそこには
鬼の様な形相をしていたnagureoが立っていた。「TAKAをだせ!」物凄い怒鳴り声が響く。
それは今までのnagureoを知っている人間からは想像も出来ない位怒気に満ちた表情をしていた。
やがて出て来たTAKAに掴みかからんばかりの勢いで捲くし立てる。
「お前、dong-tepoに何をした!」「あぁ、ただ旧曲を残すだけじゃ意味が無いからな、アナザーを付けといた」
「消せ!」「何を言ってるんだ?」「いいから消せ!」「何をわがままを言ってるんだ?」
「あの曲はあの頃の思い出の難しさを詰めた曲だ!それ以上でもそれ以下でもない!消せよ!」
「お前一人のわがままを聞いてられないだろう!駄目だ!」「いいから消せ!」
 最早議論などではなかった。お互いが感情的になって喧嘩しそうな勢いにまでなっていた。やっとの事で収まったが
二人の間に沸き上がった強烈な嫌悪感は最早どうしようもなかった。やがてTAKAが口を開いた。
「あぁ、そこまで言うなら消してやる。その代わり埋め合わせの曲をしっかり作ってこいよ!」
そのせりふが言い終わらない内にnagureoは背を向け荒々しくドアを閉めた。
(曲だと?あぁ作ってやるさ!俺の今までの思いを表した曲をな!)
 その曲は後にKAMIKAZEと付けた曲だった。いや、正直タイトルはどうでも良かった。
もっと顰蹙を買う様なタイトルでも構わなかった。むしろこの曲の中に有る、今までの盟友達の思いの方が大切だった。
TECHNOのジャンルはSLAKEの、ヴォコーダーのヴォイスはnouvo nudeの、最後のメロディーはヒロシワタナベの、そして
何よりもこの曲全体に今までの自分の歴史へのリスペクトが詰まっていた。曲を作り終えてnagureoは密かに思っていた。
(俺は・・・・もうここにはいる必要がない・・・・)

 その事を最初に告げたのはSLAKEであった。SLAKEは驚きの表情を見せた後にこう言った。
「本当に辞めてしまうのか?勿体無いな・・・・」言葉には明らかに残念そうな雰囲気が伝わってくる。
「あぁ、勝手なことを言って悪いな。だが、もう決めた事なんだ」nagureoはそう言った。
「そうか、それは残念だが仕方が無いな。そうだ、今回また5鍵で企画を立ち上げたが一緒にやってくれないか?」
「あぁ、勿論だ。俺の最後仕事だ。全力投球するさ」nagureoはSLAKEの要請に快く応じた。
(SLAKEは俺が不在の時に色々やってくれたよな、感謝しないと。そう言えば今回のあいつの企画は凄そうだよな)
nagureoはSLAKEに感謝しつつSLAKEの立案した企画に頷いていた。それは会議の時の話である。
「comp2ではリミックスがイマイチだった部分があるけど、これ自体は決して間違ってはいないと思う。そこで
今回初期のビートマニアの曲をリミックスという方向性に持って行きたいがどうだろう?」
この立案は思いの他上手く通ったので早速5鍵メンバーを中心にリミックスや新曲制作が開始された。
そんな中SLAKEはnagureoに最後だから好きに作ってみたらどうだ?と言われ、よし!やってやろうと一大奮起
したのがエイスワンダーの曲をリミックスしたStay with meだった。もとよりビッグビートが作りたくてしょうがなかった
nagureoにとって、このリミックスは会心の出来であった。
 やがて続々と出来上がる曲・・・・開発はほとんど終了し、後は発売を待つだけとなった。
そしてそれと同時にnagureoは会社に対して辞表を提出した。上層部の人間は特に反対する者も無く呆気なく受理された。

「nagureoさんが居なくなると寂しくなりますね」そう言ったのはRAMだった。
「まぁ・・・・でも俺が居なくても、もう大丈夫だよ。みんなよくやってくれたし」nagureoはそうそっと言った。
「俺nagureoさんと一緒にやれて良かったっすよ。これから俺達頑張ります」ASLETICSがそう言い放つとnagureoは頑張れよと、頷いた。
「最後か・・・・そうだな、みんなでまた食いにでも行くか」SLAKEがそう言って誘うと全員で街中へと消えて行った。

 やがてnagureo最後のこの作品はCORE REMIXと名付けられ市場へと出回った。
当初こそ静かであったが、やがてプレイし始める人が続々とあらわれて結果的
にこの作品は成功を収めた。そしてこれを境に5鍵と7鍵の逆転現象が起き始めた
のであった・・・・

「SLAKEさん、やりましたよ。COREの評判いいみたいっすよ」そう言ってきたのは
RAMだった。「俺達頑張ったかいが有りましたよね」ASLETICSがそう言ってくる。
「あぁ、色々紆余曲折は有ったが、俺達の活躍がやっと陽の目を見始めたな」
そう静かに言ったのはSLAKEだった。3人とも今回の成功に心の底から嬉しさを
表していた。
「・・・・そういえば、nagureoさんどうしているんでしょうね」RAMがふと
そんな事を言った。
「さぁな・・・・ただ、あいつの事だからその内必ず俺達の目の前で活躍してくれる
だろうよ」少し間を置いてSLAKEがそう答えた。

 あれから幾ら経っただろうか、もう自分は会社の人間ではない。安定した収入も無い。
何時消え去るとも分からない。そんな所に自分は居る。しかし、希望は消えていない。
何故か自分の先にはうっすらと光を感じる。もしかしたらそれは只の幻影かもしれない。
だけど、今は自分が見えている。先に向かって進んで行く自信が有る。
nagureoはフリーとなった今、新たな道に向かって自分を見つめながら進んで行った。